
スペシャルインタビューVol.5 医師 岩本麻奈さん 前編
心地いい暮らしを送るスペシャリストたち 2022.04.26
第5回目となるスペシャルインタビュー。今回は、一般社団法人・日本コスメティック協会名誉理事長であり、皮膚科専門医の岩本麻奈先生にご登場いただきます。岩本先生が提唱されていらっしゃる睡眠美容についてお話を伺いました。
前後編で構成されるインタビュー、前編では睡眠の大切さから美容との関係性についてお聞きしました。
睡眠が大切ということは多くの人が分かっているとは思うのですが、日本人の睡眠どのような状態なのか教えてください。
先進国クラブといわれるOECD(経済協力開発機構)加盟国38か国の中でも、睡眠6時間台とダントツに短いです。アメリカやフランスとかのG7諸国は、日本を除いて平均以上の優等生。しかも、他国では女性の睡眠時間が長いのに、日本は男性より女性が短いのです。これって、どういうことなのか考え込んでしまいます。
睡眠時間が短いことによるデメリットはどんなところにありますか?
睡眠時間が短いということは、性別に関係なく顕著に性ホルモンの分泌量が落ちていることとなり、ホルモンバランスが崩れている可能性が想定されます。性ホルモンの中枢は自律神経の中枢に隣接していますから、その影響を受けて、更年期障害に似た自覚症状があるものの、検査をしても原因が見つからないといった不定愁訴(ふていしゅうそ)(*1)の症状が現われてくるのです。
(*1)明らかな身体的原因が認められないにも関わらず、頭痛や筋肉痛、腰背部痛、疲労感、腹痛、悪心、食欲不振など多彩な症状を訴え続ける状態。
また、睡眠が足りなければ免疫力が落ちます。ウイルスや細菌に対する抗体を作る能力も落ちてしまうため、ワクチンを摂取した効果が薄くなってしまうのです。
さらには、認知症においても、睡眠は影響してきます。認知症はアミロイドβというたんぱく質が蓄積されることからも、惹き起こされるとされます。アミロイドβは寝ている間に老廃物として排出されます。長い目で考えると、快眠は認知症予防にもつながっていることになりますね。
美容に関してはどうでしょう?
睡眠不足は食欲増進のホルモンであるグレリンの分泌を促し、食欲抑制のホルモン成分であるレプチンが出にくくします。それはつまり、ダイエットの効果があまり期待できないということです。睡眠不足によるマイナス要素はここでは書ききれないほどあるので、ぜひ、私のご本を読んでください(笑)。
私たちが起きている間にやっていることのすべては、“アンチエイジングのための運動”。栄養バランスを考えた食事、シミシワの美容ケアさえもエイジングを促進する行為となります。その結果、エイジングをリバースできる行為は睡眠だけとも言えるのです。睡眠をとることの意味は非常に重大と、自覚していただきたいと思います。
起きている時間の行為は老化の促進を意味し、寝ている時間こそアンチエイジングが行われているということでしょうか?
そうですね。成長ホルモンは睡眠中に分泌される代表的なホルモンです。成長ホルモンと聞くと、子どもが大人になっていく“成長”をイメージされるでしょうが、若い時はそうでも、成長期を過ぎた大人に対する役割は違ってきます。細胞や組織の再生や修復を作用する、個体のメンテナンスを担うホルモンとなるのです。
就寝後の90分間、深いノンレム睡眠(*2)をとれば成長ホルモンの大きな波を享受できると言われています。しかし入眠の質が悪ければ、どんなに長い時間眠っても成長ホルモンの恩恵は受けられないのです。
(*2)レム睡眠とノンレム睡眠:レム睡眠またはREM睡眠は”Rapid Eye Movement Sleep”のことをいい、まだ脳が活動中の睡眠(眼球がキョロキョロしている状態)をいい、起きた際に夢の記憶が残っているレベルの睡眠。ノンレム睡眠Non-Rem Sleepは脳が眠っている状態の睡眠いわゆる熟睡をいう。レム睡眠とノンレム睡眠は繰り返される。
睡眠が大切と聞くと、就寝時間をなるべく早くすることや睡眠時間の確保が浮びますが、入眠がもっとも大事になりますか?
いかにスムーズかつ深く、入眠できるかですね。レムとノンレムの繰り返しの規則性も大切です。眠れないからと、眠剤や酒類に頼ったりするとリズムが崩れます。自然な快眠を安定的に得たいのなら、朝日に当たる、リズミカルな歩行など、生活全般を健康的に見直して改善してください。
睡眠はさまざまなことに関係しているのですね。ところで、岩本先生が提唱されていらっしゃる睡眠美容とはどんなことなのでしょう?
誰でも知っている言葉でいえば「美人は夜つくられる」ということですね。美容の前提は健康です。「病的な美しさ」や「滅びの美」があることは知っていますが、それは人々の憐憫や愛惜、またはある種の芸術性によって作り上げられたもので、自他ともに喜び楽しむ美しさではないはずです。
私自身、我ながら美しくあることを追求してきた過去を持っています。肌のためにはシンプルスキンケアと言いつつ、高級な美容液をふりかけたり、エステのスペシャルマッサージを試したりやってきました。けれども、実際はぐっすり眠ることが美しくなる一番の近道だったことを体感しました。ブランドも名人の技も敵いません。恋愛は外せませんけどね(笑)。
もちろん、ただ寝るだけでは美しくはなれません(笑)。
確かに(笑)。では、睡眠を取るうえでどんなことを意識すればいいでしょうか?
『睡眠美容のすすめ』という本を執筆している時に気づいたことがあります。健康であるには〈血行〉〈自律神経〉〈睡眠〉の3要素があって、この3つはグルグルと廻っている。循環しているのです。
よく眠れないと血行が悪くなる。血行が悪くなると自律神経のバランスが崩れる。自律神経のバランスが崩れると不眠になるという悪循環が起こります。逆に、3つのいずれかを良くすることで、すべてが改善される円滑循環が可能となります。
いま、コロナ禍の時代。予期されなかった災禍にさらされ、ストレス過重となった現代人は自律神経における交感神経が優勢になりがちです。毎日を活き活きと生きていること。起きて活発に動いていることのすべては、エイジングのアクセルを踏んでいることにほかなりません。体幹を鍛えるジム通い、体脂肪を落とす健康食、美容医療での若返り。なにをやっても細胞レベルではエイジングなのです。
きちんとリバースする時間を設けないといけません。そのためには副交感神経を優位にすることです。アロママッサージや深呼吸もその手段ですが、一番は良質の睡眠をとる。これに勝る方法はありません。
人生の3分の1は眠っている時間です。怠惰だからではありません。必要だから眠っているのです。
もともとショートスリーパーの人もいると思います。先ほどのお話では、入眠からの90分間が大切ということ。睡眠のトータル時間は気にしなくてもいいのでしょうか?
ショートスリーパーの遺伝を持っている方は0.5%以下だそうです。たぶん勘違いされていらっしゃると思います。実は私もそうでした。
CBDは、入眠をサポートするという意味でも、睡眠にいいと伺ったのですが、その理由を教えてください。
CBD(カンナビジオール)のオイルを睡眠のサポートアイテムとして取り入れるのもおすすめです。特に“悩みや不安があって眠れない”人のためにサポートアイテムとしてご案内しています。
投与は10%とか15%のCBDオイルを舌下にたらして粘膜吸収させるのが、一般的ではありますが、経口はちょっと気がひけるという人、かゆみと痛みのための外用のバウムとマッサージ用のオイルも処方しています。加えて、どうも睡眠導入作用もあるようで、現在メカニズムを調べております。
CBDはノンレム睡眠のうち、より深い徐波睡眠をサポートする役割と考えられています。高齢になると深い睡眠が取りづらくなりがちです。CBDを取り入れて、入眠からの90分間の質を上げていくのもいいと思われます。

もうひとつ大事で簡易な睡眠美容的習慣としてはお風呂があります。お風呂の入り方を意識するとよく眠れるようになります。
なるほど、お風呂は大切なのですね。質がいい睡眠につながるお風呂の入り方については、後編に続きます。

PROFILE
岩本麻奈さん
一般社団法人・日本コスメティック協会名誉理事長、皮膚科専門医。慶應病院や済生会中央病院などで臨床経験を積み、1997年に渡仏し、在外生活20年以上にわたる生活で美容皮膚科学、自然医学、抗老化医学などを学ぶ。コロナ禍で帰国し、現在、ナチュラルハーモニークリニック表参道、グランプロクリニック銀座では、睡眠美容外来を設立。また、さまざまメディアを通して美容情報を発信している。近著は『睡眠美容のすすめ』(西村書店)。
ナチュラルハーモニークリニック表参道:https://natucli.com/
グランプロクリニック銀座:https://granpro-clinic.com/
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